大手監査法人に勤務していたgordito(ゴルディート)です。
- 監査法人は大手も中小も激務なの?
- 激務の理由はなんだろう。
- 働き方改革で激務は改善されたのかな?
このような疑問を解決できる記事になっています。
なぜなら、一般企業と大手監査法人に勤務経験のある私が、監査法人が激務と言われる理由と実際のところどうなのか等を紹介するからです。
記事を読み終えると、監査法人は激務であるか否か理解できます。
監査法人は激務と言われる理由と実際
監査法人は激務だと言う人がいます。
激務と言われる理由
では、なぜ監査法人は激務と言われるのでしょうか?
それは、多くの人が長期休暇を取っているGWに休みも取れず、毎日朝から晩まで働いているイメージがあるからでしょう。
GWに全く休暇が取れない理由
では、なぜGWが忙しいのでしょう?
監査対象となる日本の多くの企業は3月決算のため、期末監査が4-5月あたりに集中するからです。
繁忙期には、監査法人勤務の多くの会計士が土日祝日関係なく、毎日終電近くまで働きまくります。
そのような状況を目の当たりにしている人たちに『監査法人って激務だね・・・』という印象を持たれるのでしょう。
私の場合
毎年4-5月は忙しかった記憶がありますが、最も大変だった時は2週間ほど働き続けました。
毎年、恒例のことなので問題ないと思っていましたが、繁忙期が過ぎた頃にバーンアウト症候群のような症状が出て、何もやる気が起きませんでした。
数週間したら元の状態に戻ってきたので良かったですが、働き過ぎるってこういうことなのか、と実感しましたね。
ただし、私は新卒で一般企業に就職しましたが、正直、その一般企業の方が監査法人よりも忙しかったです。
私の同期の場合
決算期の異なるクライアントを複数担当している同期がいましたが、年がら年中、期末監査をやっていましたね。
有給休暇もろくに取れていないようで、その同期からしたら、監査法人は激務だと感じたことでしょう。
激務か否かは監査法人の規模以外の要素に左右される
忙しさの程度は、大手監査法人、準大手監査法人、中小監査法人で異なるのか疑問に思う方もいると思います。
正直、規模の大小だけで忙しさは判断できません。
大手監査法人の中でも事業部やチームが異なれば、激務だったり、そうでなかったりします。
例えば、A監査法人の期末監査の予定が次の通りだったとします。
◯◯自動車 | △△ビール | |
監査時間 | 200時間 | 100時間 |
監査期間 | 10日間 | 5日間 |
会計士 | 3人 | 2人 |
勤務時間 | 7時間/日 | 7時間/日 |
この場合、◯◯自動車に関しては、3人の会計士を10日間アサインすれば残業なしで対応可能だとわかります。
一方、△△ビールは、2人の会計士を5日間アサインしても必要な監査時間に届かず、30時間程度は残業や休日出勤をして対応することが必要になります。
こうなると同じ監査法人に所属していても、△△ビールにアサインされる会計士の方が忙しくなります。
つまり、激務かどうかは監査法人の規模の大小ではなく、監査時間、監査期間、会計士の数、アサイン等、様々な要素に影響されるのです。
監査時間
クライアントと監査契約を締結する時に監査時間と単価/時間で監査報酬が決まります。
新規ではなく継続クライアントの場合、前年度に要した監査時間をベースに交渉になると考えられますが、監査契約を締結するパートナーの力量によっては、監査時間を削られたり、単価を下げられたりします。
必要十分な監査時間を確保できない場合、激務になる可能性があるでしょう。
大手監査法人は日本を代表するような大企業をクライアントにしていることが多く、比較的、良い条件の監査契約を締結できる可能性は高いです。
監査期間
監査業務は、クライアントの業務をチェックするという性質上、クライアントの業務が終了しないと業務を開始できません。
3月決算であれば、4月中旬頃から依頼資料が提出され始めますが、クライアントによっては4月末まで提出されないケースがあります。
監査資料の提出が遅かったり、修正すべき事項が多かったりすると、ものすごい激務の日々が続くことでしょう。
会計士の数
必要な業務量に対して、十分な数の会計士がいれば激務にはなりません。
しかし、現実問題として期末監査を余裕で迎えられるほど潤沢な会計士が所属する監査法人はないでしょう。
非常勤の会計士や監査補助職員を上手く活用して、乗り切るしかありません。
相対的に人員が少ない監査法人は規模の大小に関わらず、激務になりやすいでしょう。
アサイン
各監査チームのインチャージから希望を聞いて、アサイン表が作成されます。
アサインの巧拙は、インチャージの力量とアサイン担当の力量にかかっていると言って良いでしょう。
アサインがぶつかったり、想定外のことが起きて急にアサインが欲しかったりする場合に上手くやりくりできるインチャージがいれば、下の人たちは激務になりにくいです。
激務か否かは、様々な要素が絡んで決まるものであり、大手か準大手か中小かで決まるものではないことがわかったのではないでしょうか。
同じ監査法人の同じ事業部にいても私と同期で残業時間や有給休暇の取得日数が大きく異なっていたので、正直、監査法人に入所してみないと、自分がどのような立場に置かれるかわからないという面が強いです。
ちなみに、スタッフよりはシニア、シニアよりはマネージャーの方が忙しくなり、有給休暇も取得しづらくなる傾向にあります。
監査法人のシステム監査部門は激務か?
私はシステム監査部門に所属したことはないですが、私の監査チームはシステム監査部門のIT専門家と仲が良く、よく一緒に飲みに行っていました。
IT専門家は『前職の時の方が忙しかった』と口を揃えていたので、彼らからしたら監査法人は激務とは言えないのでしょう。
しかし、IT専門家は数多くのクライアントを担当するので、少なくとも暇ではないはずです。
1つ1つのクライアントの概要把握には時間がかかり、また、担当クライアントが増えると総括業務が増えるので、仕事量はそれなりにあるでしょう。
なお、システム監査部門で働くIT専門家は、基本的に中途採用で監査法人に転職してきた人たちで、年齢層は20代後半から40代前半が最も多いイメージです。
蛇足ですが、システム監査技術者試験(AU)を受験する公認会計士も少数ですが、それなりに存在しています。
公認会計士がシステム監査技術者試験に合格した場合、会計監査とIT監査の両方に携わったり、IT監査だけに携わったり、会計士によってまちまちです。
規模の大きな監査法人であれば、ある程度の希望は通ると思います。
監査法人の激務は改善されないのか?
労働環境の改善に取り組んでいる理由
監査法人も次の理由から労働環境の改善に取り組んでいます。
監査法人からの人材の流出を防ぎたい
公認会計士試験の合格者の8割以上が監査法人に就職するのものの、多くの会計士がいずれ転職する傾向にあります。
事実、私の監査法人時代の同期も10年経たずに過半数が監査法人を辞めています。
近年は公認会計士試験の合格者も1,300人程度と大きく増えているわけではないので、監査法人は人手不足気味です。
監査法人としても人材流出を防ぎたいでしょう。
社会からの要請(働き方改革など)
働き方改革関連法案には、長時間労働の是正などが盛り込まれており、監査法人としても対応していかなければなりません。
社会の目がある以上、監査法人も労働環境を改善し続ける必要があります。
改善事例
具体的には、次のような事例が挙げられます。
監査補助職員の増員
特に大手監査法人では、監査補助職員を採用することにより、会計士の負荷軽減を図っています。
これは昨今始まった動きではなく、10年近く前から監査補助職員の採用を増やす傾向にあります。
監査法人ランキングの記事で紹介しましたが、現在では各大手監査法人に勤務する監査補助職員の数は多く、PwCあらた有限責任監査法人では、使用人の40%程度が監査補助職員となっています。
パソコン利用時間の制限
有限責任あずさ監査法人が、平日の夜間や休日に貸与PCの使用を制限する施策を始めた時、監査業界ではけっこう話題になりました。
内部の人間から話しを聞く限り、賛否両論あるようですが、いつでもどこでも働ける環境よりは激務になりにくいと考えられます。
ITの活用
期末監査において多くの時間を要する『確認手続』に関して、有限責任監査法人トーマツが改善を図っています。
従来、紙ベースで郵送していたものをWeb上で行うシステムを開発しています。
他にも大手監査法人はITを活用した監査を模索し続けており、専門の部署や組織を設けています。
しかし、IT活用により大幅な人員削減が可能となるのは、まだまだ先のことでしょう。
激務が劇的には改善されないだろう理由
監査業界全体で、業務の効率化や作業負荷の軽減には力を注いでいますが、次の理由から忙しさは劇的には改善されないだろうと考えています。
監査の業務量は増えることはあっても減ることはない傾向にある
監査業務は、年々やることが増えているイメージです。
私が監査法人に勤務する少し前までは、内部統制監査も四半期レビューもなく、さらに前は連結会計も税効果会計もありませんでした。
会計や監査が高度化、複雑化していく中で、必要な知識と必要な手続は増え続けているという印象です。
これからも日本の基準と海外の基準のコンバージェンス、海外の基準のアドプションだけでなく、日本独自の基準も設けられることが予想されるので、監査業務がラクになることはないと考えられます。
また、不正事例が起きてしまっても監査手続や作成すべき調書が増加します。
今後も確実に大手企業の不正事例は起きるはずなので、その度に社会から監査法人への風当たりは強くなり、業務量は増えることでしょう。
監査報酬が劇的に増加する可能性は低い
業務量が増えても、監査報酬が大きく伸びれば人をたくさん雇えるので、激務になることはないでしょう。
しかし、現実には監査報酬には常に値下げ圧力があり、大きく増加させることは困難です。
となると、雇える会計士や監査補助職員の数には限界があり、劇的に労働環境が改善するとは考えられません。
米国のような監査報酬の水準になれば、労働環境は劇的に改善されると思いますが、実現は程遠いでしょう。
まとめ
最後にまとめます。
監査法人が激務であるか否かなんとなく理解できたのではないでしょうか。
総じて残業時間は多いと思いますが、人によって結構まちまちです。
もし現在、激務で悩んでいる会計士の人がいたら、職場を変えてみるのもありかもしれませんね。
というのも、監査法人の退職理由の1つが『激務』だからです。
どのような理由で監査法人を辞めたいか興味のある人には次の記事がおすすめです。